【1/12 イベント開催レポート】吉里恒昭先生 出版記念講演・市民講座「子どもの心と体を整えるポリヴェーガル理論入門」
開催日時: 2026年1月12日(月・祝)9:30~11:30
開催場所: 勝どき区民館(東京都中央区)
主催: 一般社団法人TokyoBay共育・共生プロジェクト
講師: 吉里恒昭氏(臨床心理士・公認心理師・医学博士)
参加者: 会場参加者とオンライン参加者を合わせて約30名
1. イベント概要
新刊『子どもの心と体を整える「ポリヴェーガル理論」入門』の出版を記念し、著者である吉里恒昭先生を大分よりお招きして開催された市民講座。臨床実践を交えて、支援者や子育てをしている親に役立つ問題の見方や考え方、「ポリヴェーガル理論」がどう役立つのかを学んだ。
2. 講演の主な内容
2.1支援における「眼鏡」の話
「オズの魔法使い」の「エメラルドの都」の例を引きながら、私たちは皆「眼鏡」をかけて物事を見ている。
重要なポイント:
- 私たちは経験したことが「メガネ」になって、メガネを通して世界を見ている
- 支援者の役割は、「この眼鏡で見たらそう見えるのも無理はない」と理解すること
「支援というのは正しい方向性があってそこに導くことも大事だが、それだけでは限界があるケースも多い。この人がなぜこう見えてしまうのか、そこに意識を向けることが大切です」
2.2実践的な事例
面談に来た夫婦の事例では、夫と妻それぞれの話を聞くと、全く異なる物語が見えてきた。小グループで対話をして、様々な考えが浮かんだ。
事例から学ぶこと:
- 一方だけの話を聞くと「評価」「ジャッジメント」に偏る
- 両方の背景を聞くと、「そうせざるを得なかった」ストーリーが見えてくる
- 情報の多くは、事実だけではなく解釈が混じって、編集されている
- 語りとは、「編集されているもの」と気づくことが大事
「支援者は「人を責めない視点」を持ち続けることが重要です」
2.3 体と心のつながり
人は、問題と定義したものを解決したくなる。その問題(原因)を排除すれば解決するという現象がおきると、宝物は見えなくなってしまう。⇒「宝物見失い現象」
問題があるのではない。問題と見る「見方」があるということ
実践的なアプローチ:
- 本人は「体」と共に生きていて、「体」が、環境に反応している。望んでいない体の反応もあり、本人は「体」と共に何とか頑張っている。反応を人格評価と混同しない。
- 「問題」と見ないで、体の状態を整えることを重視する。
- 「本人」と「体」をわけて考える。一体化させられるのはつらい。
「体が整うと認識が変わる。問題と見ていたものが問題と見えなくなることが起こる」
2.4 ポリヴェーガル理論とは何か
ステイーブン・ポージェス博士が提唱した新しい自律神経理論
自律神経は脳と体の間を繋ぐひとつの要因
ポリヴェーガル理論の核心:
- 「ポリ」=多重、「ヴェーガル」=迷走神経(副交感神経)
- 副交感神経を2種類に分ける考え方
- 最大の特徴: 自律神経は個人の中だけでなく「関係性」に影響される
「哺乳類は、群れを作って生き延びてきた。群れること、つながりあうことで進化してきた。つながることで安心するように設計されている。
哺乳類も最も高い生存能力は「穏やかさ」で、生存には「助け合い」と「協力」が不可欠であると、ポージェス博士は強調している。」
2.5 色で理解するポリヴェーガル理論
理論を分かりやすく伝えるために「赤・青・緑」の3色で表現する独自の方法を紹介した。
- 赤(交感神経): アクセル 興奮、戦う、逃げる状態。エネルギーを使って問題を解決しようとする
- 青(背側迷走神経複合体): 急なブレーキ シャットダウン、凍りつき、動けない状態。省エネでエネルギーを温存する。悲しみ、あきらめ、無力、不信、罪悪感。
- 緑(腹側迷走神経複合体): 穏やかなブレーキ 平和、感謝、愛、つながり、安心の状態。仲間を作ることができる
「色で表すことで、自分の状態を客観視できるようになるんです」
2.6 共同養育への応用
松村氏との対話の中で、共同養育支援における応用についても言及された。
「喧嘩した2人が共同で子育てをするのは非常に難しい。その時に何が大事かというと、結局自分の精神状態をまともにしていかないと共同養育なんて難しすぎる」
共同養育支援のポイント:
- 支援者自身が「緑」の状態でいることの重要性
- メディエーションでは、まず3色の世界観を共有することで、「赤」「青」の状態を客観視できるようにする
- 「主体的に赤を押す」選択と「反射的に赤になる」状態を区別
3. 質疑応答セッションのハイライト
Q: 子どもが爪噛みをやめません。どうアドバイスすればいいですか?
「爪噛みをやめさせることも大事だけど、爪噛みで安心したいんだという視点がまず大事。別の方法でクールダウンできる方法は何があるかを一緒に探す。正解を見つけることよりも、そのプロセスが大事です」
Q: 赤・青・緑は何歳から理解できますか?
「幼稚園から実験しました。内容は完全には理解できなくても、自己モニターをする出発点として小学生でも使えます。『なんで緑になったの?』『アイスクリーム食べたから』、そんなレベルでいい」
Q: 受験で親が赤になっている場合は?
「よく話してみて、『ここはやり時だと思う』と言ってくれたら、それは主体的に赤を使っている。そこは応援する。でも『やりすぎ』な部分は一緒に整理する。本人と体の反応を分けられるようになることが大切」
Q: 子どもが発達障害と診断を受けたが、専門家の助けが必要でしょうか
「親が専門家といることで、体が緑になれているか、その関係性が大事。専門家の援助が、認知のみになっていると、体はおいていかれ、安心感が得られない。体が答えを知っているくらいのスタンスに立つことが大事」
4. 参加者の声
- 「3色の表現が分かりやすく、すぐに実践で使えそう」
- 「問題を解決することよりも、安心した状態で問題に向き合える状態を作ることの大切さを学びました」
- 「自分も子どもも、まず体を整えることから始めたいと思いました」
- 「支援者同士がつながって緑でいることの重要性を再確認しました」
5. 吉里先生からのメッセージ
「まずは皆さんがご自身の体に関心を持って、愛着を持って、いたわる気持ちになると嬉しい。それが膨らんでくると、他の方に自然と緑は手渡せる、おこがましいけど、そういう社会を見たい」
「難しいテーマがたくさんあると思いますけど、抱え過ぎずに、皆さんと一緒にやれたらいいなと思っています
6. まとめ
今回の講演では、ポリヴェーガル理論の基本から実践的な応用まで、子育てや支援の現場で直面する課題への新しい視点が提供された。特に以下の点が参加者の大きな学びとなった:
1. 体の状態が心に影響する - 問題解決よりもまず体を整えることの重要性
2. 3色(赤・青・緑)という分かりやすいフレームワーク - 自己モニタリングと客観視のツール
3. 「眼鏡」の理解 - 支援者として「そう見えるのも無理はない」という視点を持つこと
4. 関係性の力 - 支援者自身が「緑」でいることで、相手も「緑」になれる
5. 実践への一歩 - 完璧を目指すのではなく、構造を意識しながら一歩ずつ進むこと
吉里先生の温かく実践に根差した語り口と、参加者一人ひとりの問いに丁寧に応える姿勢から、「一人ひとりの物語を大切に聴く支援者としてのあり方」を学ぶ時間にもなりました。ポリヴェーガル理論を知識としてではなく、「使えるもの」として参加者に届けることのできた、とても貴重な機会だったと感じています。
「ポリヴェーガル理論」を提唱したポージェス博士の、「人はつながり合うことで進化し、生存のためには助け合いと協力が不可欠である」という言葉も印象に残りました。そのためにこそ、私たちには、つながりを感じる自律神経の「緑」の穏やかさが必要だと、改めて腑に落ちました。
ポリ語の赤・青・緑の三色を手がかりに、自分自身の体のコンディションを整えながら、自分も相手も状態として捉えていくこと。何かを守ろうとして必死に頑張っていた「赤」も、エネルギーが尽きて立ち止まりたかった「青」も、どちらも大切な反応として、労わっていきたいと思いました。
(藤原範子記)

