【 9/24共同養育Lab.番外編】ドイツMiKKクリスさんに聞く共同養育計画書作成メディエーション

開催日: 2025年9月24日(水)19:00~21:00
形式: オンライン(ZOOM)
主催: 一般社団法人TokyoBay共育・共生プロジェクト
参加者: 定員10名(男性7名、女性3名)

1. 講座基礎情報

講師:Christian von Baumbach(クリス)氏

重要な前提:クリス氏は弁護士ではないメディエーター

  • ドイツ・ベルリン在住の公認調停人(BM、BAFM、SIMI)
  • 2016年からフリーランスメディエーターとして活動
  • ボンと東京で日本学を学び、6年間日本に滞在
  • 7年間、大阪大学で国際家庭メディエーション・ハーグ条約のセミナーを実施
  • 現在、大学(Euro-FH、ポツダム大学)で調停と異文化コミュニケーションを教える
  • MiKK日本大使、日本国際調停センター(JIMC京都)パネル調停人

イベント開催の意図

  • 共同養育計画書作成の具体的プロセスを学ぶ
  • 日本でのメディエーション実装に向けたTODOを見出す

2. メディエーション総論

メディエーションの定義

「紛争を解決するためのプロセス。仲介者が対立する当事者の話し合いをサポートし、共同で問題を解決する」

— Beer and Packard (2012): The Mediator's Handbook

重要なポイント:

  • メディエーターが問題の解決をしない
  • 当事者が解決できるようサポートする
  • 日本の民事調停との違い:裁判所のルールを押し付けるのではなく、話し合いをサポート

メディエーションの6つの指導原則

  1. 任意性/圧力からの解放
  2. 自己責任/自己決定
  3. 未来にフォーカスする
  4. 透明性
  5. 秘密性
  6. 中立性/公平性

クリスのコメント

「全ての原則を100%守れたメディエーションは1つもない。必ずどこかに問題がある。それでもプロセスを意識しながら行うことが大切」

3. クリスが大事にしていること

  1. 構造(プロセス)が最も重要 - 「本に書いてあることと実践は全く違う。実際はぐちゃぐちゃになる。メディエーターの役割は『構造をつける』こと」。5段階のプロセス(準備・現状把握・相互理解・選択肢創出・合意実行)を意識しながら進める
  2. 中立性を守るための工夫 - 最初から同席を基本とする。片方だけと長時間話すと中立性を失う。
  3. 「できない」ではなく「どうすればできるか」 - DV案件でも、環境を整えれば(弁護士・セラピーのサポート、別席実施など)メディエーションが可能になることがある。
  4. 費用は両方が負担 - 原則半々だが、一方が全く払わないのは良くない。金額は少なくても両方が何らかの貢献をすることで、実行責任とバランスを保つ。
  5. エンパワーメントの力を信じる - 「弱い立場の人が、メディエーションを通じて強くなる。それは非常に美しいこと」。当事者が自分の力で解決できることを信じてサポートする。

4. 日本のメディエーションでの適用可能性

  1. 法的枠組みとガイドラインの整備が必要 - 日本は親子断絶が当たり前の社会で、法的枠組みが不足。
  2. 文化的差異を理解する - 喧嘩・対立の文化、コミュニケーションスタイル、「嫌なことから逃げる」傾向など。クリス「日本とドイツに大きな違いがある。日本の文化に合わせたメディエーションを提供することが大切」
  3. 専門家の育成と協働 - メディエーターがほとんどいない現状。メディエーション単独ではなく、裁判、警察、ソーシャルワーク、セラピーなど全体のエコシステムの一部として位置づける
  4. 段階的な導入と実践 - 「経験が少なくても人を助けることはできる。石の上にも三年。メディエーションに参加する人をサポートしてあげると、当事者は強くなる」
  5. 希望を持つ - クリス氏「日本人とのメディエーションで、自分の意見をはっきり言える、自分と子どもを守れる強い人たちに会った。時間がかかるが、日本でもメディエーションが導入され、ちょっとずつ進化することを期待」

5. 参加者の感想・学び

  1. 原則の理想と現実のギャップ - 「全ての原則を100%守れたメディエーションは1つもない」という率直な告白が印象的。完璧を目指すのではなく、構造を意識しながら進めることの重要性を理解
  2. プロセス重視の姿勢 - 参加者が最も学びたかった「メディエーションのプロセス」について、5段階の構造と「ぐちゃぐちゃになっても構造をつける」という実践的な知見を獲得
  3. DVへの対応の転換 - 「DVがあったらできない」から「どうすればできるか」への考え方の転換。環境を整えることでメディエーションが可能になるケースがあることを学んだ
  4. エンパワーメントの実例 - 弱い立場のお母さんが最終的に「子どもの前でハグできた」という事例が、メディエーションの力を具体的に示した
  5. 実践への一歩 - 「経験が少なくても人を助けることはできる」という励ましから、日本でのメディエーション実現への希望を得た

クリスからのメッセージ

「色々あっても結局みんなが望むのは同じ。子どもが幸せに。そのためにどうすれば当事者をサポートすることができるかを皆さんと一緒に考えながら、そのメディエーションの枠組を進化しなければなりません」

「日本でもこれから時間がかかると思うけれどもメディエーションが導入され、知られ、ちょっとずつ進化することを期待します」