【8/3共同養育Lab.開催報告】メディエーションを活用した共同養育の実践—カナダにおける別居合意から現在まで7年の実践—
第5回となる今回は、カナダ・サスカチュワン州在住のなおこさんをお招きし、参加者8名(男性5名、女性3名)の方と共に、メディエーションを活用した別居合意書(共同養育計画書)の作成、そして現在に至るまでの7年間のその後の状況について伺いました。州政府が作成したマニュアルや実際の合意書も確認し、合意の姿や、感情的整理のあり方について考える機会となりました。
なおこさん家族の基本情報
息子さん: 息子(現在19歳)、娘(現在16歳)
美穂さん: 日本国籍
夫: カナダ国籍(ウクライナ系6代目移民)
居住地: カナダ・サスカチュワン州(2005年~)
婚姻・離婚: 2002年日本で結婚、現在も離婚成立せず(元夫が離婚手続き拒否)
離婚前後の経緯と共同養育への道のり
1. 結婚・移住・子育て期(2002-2016年)
出会いと結婚
2002年:ペンパルだったカナダ人男性が来日、日本でと結婚
2005年:なおこさんがカナダに移民し、バンクーバーに住む
当初はハニーワイン事業を共同で起業するも失敗
バンクーバーからサスカチュワンへの移住
2008年:娘出産直後に元夫が失業
経済的困窮により夫の実家があるサスカチュワン州に移住
義理のおば(医師)からの経済的援助を受ける
関係悪化の要因
夫の2-3年間の無職状態と金銭管理能力の欠如
勝手な車購入(3回)
毎日の喧嘩状態が継続
2. 別居合意書(セパレーション・アグリーメント)作成(2016-2017年)
メディエーター選択
地元のメディエーション会社を利用
「旅行代理店のような」事務的な手続き
メディエーションプロセス
第1-2回セッション: 財産状況の洗い出しと希望の確認
第3回セッション: 合意内容の最終確認と署名
費用: 30万程度(メディエーター費用+弁護士書類作成費用)。弁護士のサインの方が安く(サインと文章の構成)メディエーターの方が高かった。
セパレーションアグリーメントの合意内容
合意文書の概要
- 準拠法: サスカチュワン州法
- 法的位置づけ: 夫婦間合意書(離婚前の別居合意)
- 子供: 息子(当時11歳)、娘(当時9歳)
共同養育の取り決め内容
基本養育スケジュール
- 1週間交代の完全共同養育
- 平日も担当週でない親との面会機会を確保(火・水曜夜の1泊可能)
- 学校の送迎は各親が担当週に実施
年間行事の細かな分担
- 夏休み: 妻/日本帰省4週間、夫/4週間
- クリスマス: 12時間単位での交代制
- 誕生日・記念日: 両親合同
- 日本旅行費用: 夫が年$1,500を負担、18歳まで
教育費・養育費の仕組み
- 基本方針: 50-50の共同養育のため定期的養育費なし
- 教育費: 学費・習い事費用は完全折半、専用共有口座で管理
- 税務連動: 毎年税務申告書を交換し、連邦ガイドラインに基づき調整
- 特別費用: 矯正歯科、私立学校、スポーツ活動等は事前合意の上で折半
財産分与
- 住宅: 妻が夫の所有分を購入、以降妻がローン・税金を全額負担
※当時、夫に仕事がなかったため、ローンを払える権利がなかった。別居するまでの総額の住宅ローンを妻が夫に半分支払って、家を妻のものにした。 - 個人財産: 各自の名義資産は各自が保持
- 債務: 夫の車両購入借金等は夫が単独負担
コミュニケーション・安全管理
- 連絡方法: 基本メール・テキスト、48時間以内返信ルール
- 危険活動: 両親の書面同意なしに危険な活動を禁止
- 州外旅行: 2週間前の事前通知義務
※夫がサインしないと、妻は子を連れて日本に行けなかった。空港でもその書類を見せることになっていた。現在は子が16歳を超えたためない。
法的実効性の確保
- 強制執行: 裁判所への執行申立が可能
- 変更条件: 書面による相互合意でのみ変更可能
- 離婚後継続: 離婚成立後も合意内容は有効
合意後の実際の運用(2017-現在)
3. 順調なスタート期(2017-2020年)
- セパレーションアグリーメント通りの1週間交代を実践
- コーチングを受けて「許し」を学び、良好な関係を構築
- クリスマスやサンクスギビングも一緒に過ごす
4. 関係再悪化期(2020年-現在)
- 夫が勝手にBC州に移住し、セパレーションアグリーメントを放棄
- 3年間子供に会いに来ず
- 養育費の支払い遅滞(タックスリターン提出拒否)
妻は本来であれば日本に帰国したいと考えていたものの、子どもと離ればなれになることを恐れ、カナダに留まることを選択。自分の故郷でもない異国の地で、一人で子育てに奮闘してきた。
そのような状況の中、夫が一方的にBC州へ移住し、再度亀裂を生み出した。妻はその時点で離婚を求め、正式な手続きを進めようとしたが、夫はその書類にサインすることなく、一人でBC州へと去ってしまった。
5.現在の状況
- なおこさんが実質的に100%養育
- 息子19歳、娘16歳で子供の意思が尊重される年齢
- 元夫との関係は悪化したまま
- 離婚は夫の手続き拒否により未成立
成功要因と課題
カナダ制度の利点
- システマチックな養育費算出: 政府による自動計算システム
- 共同養育の社会的受容: 「当たり前」として社会に定着
- メディエーション制度の充実: 民間会社による専門サービス
- 段階的アプローチ: セパレーション→離婚の2段階プロセス(裁判を通じれば別居後1年で離婚が出来る)
直面した課題
- 相手の協力依存: 制度があっても相手が守らなければ機能しない
- 地理的制約: 遠距離になると共同養育継続が困難
- 感情の処理: 個人の感情処理が重要
- 法的強制力の限界: 合意違反(居住地)への実効的制裁の不足
日本への応用可能性
制度面での示唆
- 養育費算出の自動化: 標準化されたガイドライン
- 養育費の代行徴収: 養育費を払わない人は、自動的に給料から養育費を支払う制度も申請すればできる。
Notary(公証)や裁判所に登録すると、強制力が発生する。 - メディエーション制度の普及: 民間専門機関の育成
- 離婚プロセス: 別居合意の採用
- 共同養育の社会的受容: 文化的土壌の醸成が必要
個人レベルでの学び
- 感情管理スキルの重要性: コーチング等による自己成長
- 子ども最優先の共通認識: 当事者双方の意識改革
- 柔軟な合意調整: 状況変化に応じた継続的話し合い
- 新しい関係性構築: パートナーとしての関係終了後の共同養育
まとめ
なおこさんの7年間の実践から、制度化された共同養育システムの利点と限界の両面が明らかになりました。カナダのシステマチックなアプローチは参考になる一方で、最終的には当事者の協力意識と感情管理能力が成功の鍵となることがわかりました。
特に重要なのは:
- 制度の整備だけでは不十分: 社会的受容と個人の意識改革が必要
- 継続的関係の前提: 「一生続く親子関係」の受容
- 第三者支援の活用: メディエーターやコーチの専門的支援
- 段階的アプローチ: 性急な解決より時間をかけた合意形成
この実践例は、日本でも制度改革と併せて文化的土壌の醸成が重要であることを示しており、共同養育実現への具体的な道筋を提供してくれる貴重な事例だと感じました。
共同養育Lab.は、今後も毎月第1日曜日の午後に月島近辺にて開催予定です。共同養育に関心のある方は、ぜひお気軽にご参加ください。

