【7/6 共同養育Lab.開催報告】メディエーションを活用した共同養育の実践 —バリ島での別居から現在まで15年の軌跡—
第4回となる今回は、インドネシア・バリ島在住のウッドゲイト美穂さんをお招きし、離婚前後の経緯からメディエーションを活用した共同養育の合意形成、そして現在に至るまでの15年間の実践について詳しく伺いました。参加者7名(男性4名、女性3名)の方と共に、感情的対立を乗り越えて持続可能な共同養育を実現するための具体的な方法について学ぶ時間となりました。
美穂さん家族の基本情報
息子さん: 現在18歳(高校卒業)、3つの国籍保有(日本・イギリス・オーストラリア)
美穂さん: 日本国籍
元夫: イギリス・オーストラリア国籍のプロフォトグラファー
居住地: インドネシア・バリ島(息子2歳半時に移住)
婚姻・離婚: 日本で婚姻届を提出、オーストラリアでは日本の婚姻が認められる。約10年間の別居を経て2年前に離婚成立
離婚前後の経緯と共同養育への道のり
1. 結婚・移住・子育て期(2004-2012年)
出会いと結婚:
2004年:キャリアアップのために行ったオーストラリア留学中にパーティーで元夫に出会い、約1年の交際を経て、事実婚によりビザ取得ができた。元夫は婚姻にこだわらなかったが、美穂さんは結婚したいと思った。
2006年手続きの簡便さを重視して、日本で婚姻届提出。
バリ移住の決断:
2007年:オーストラリアで息子誕生
2009年:家族でバリ島ウブドに旅行に行った際、元夫の強い希望で移住することに。
美穂さんもそれまでに旅行で何度も訪れている地だったということもあり、息子が小学生になるくらいまでなら住んでもいいかと思った。結局、現在に至るまで住むことになる。
経済基盤としてオーストラリアの家を賃貸に出し、その収入で生活ができる安心感はあった。
移住後の生活:
元夫の希望で、オーストラリアの家を売却し、バリで土地購入・家を建設することになる。それによって、経済的基盤を作るために、共同でカフェ経営をすることになる。(現在も継続中)
息子は英語で教えるインターナショナルスクールに通学。
2. 夫婦関係の破綻と別居の決断(息子6-7歳、2013-2014年)
関係悪化
子育て方針の違いは少なかったが、夫婦としての価値観の相違が表面化する。
広い家での「住み分け」により、しばらくは同居を継続することに決める。
しかし、ある出来事をきっかけに感情的対立が激化。
別居への合意
共同親権が当たり前の国で生まれ育っている元夫にとっては、別居・離婚の話し合いをすることは自然なことで、カフェで話し合いをする。
基本方針の確認: 「パートナーシップは終了、ビジネスと育児は継続」
子ども最優先: 息子が両親に会える環境を最重要視
経済的現実: どちらもバリに残る必要があり、共同でのカフェ経営継続
元夫の不安要因:
当時日本がハーグ条約未締約国であった(日本は2014年に発効)であったため、美穂さんが元夫の同意なく息子を連れて帰国する懸念を友人や弁護士から「警告」されたことにより、元夫が感情的に不安定になる。
3. メディエーションの経緯(2013年)
専門家探しの試行錯誤:
バリの弁護士に相談:
インドネシア法では婚姻届を出していないので、離婚するために、新たにバリで婚姻届を出して離婚届を出すことが必要だと告げられる。すでに離婚しようとしているのに現実的でなく断念する。
日本・オーストラリアの法律相談
居住国外のため実効性ないことがわかる。
インドネシア人メディエーター:
元夫が文化的理由で拒否をする。
運命的な出会い:
誰に頼んでいいのか本当に困った時に、心理セラピストのアメリカ人女性(70代後半)を思い出す。連絡先はわからなかったが、住所はわかったので直接自宅を訪問した。彼女は心よく迎えて話を聞いてくれた。彼女のスイス人の夫はプロのメディエーターだったということがわかった!
彼らに間に入ってもらうことを提案し、元夫も同意する。
メディエーションの具体的プロセス
【第1回セッション】関係性構築と宿題設定
所要時間: 約1時間
参加者: メディエーター(夫)+心理セラピスト(妻) + 美穂さん夫婦の4人
主な内容:4人の関係性と立ち位置の確認
今後の進め方の説明と合意形成
宿題
次回までに(3・4週間後)財産分与、息子の養育についてなど、それぞれの希望や率直な想いを文章化してくること。
【第2回セッション】希望共有と論点整理
宿題の提出
美穂さんは詳細な希望を9枚、元夫は簡潔な3枚(性格の違いがあらわれていた)
進行方法:
- 各自の文書を読み上げる
- 共通点と相違点の整理
- 一致する部分:そのまま合意事項として確定
- 相違する部分:背景や理由を説明し合う
- メディエーターによる建設的な質問と介入
- 感情的対立を避けつつ、本質的な議論を促進
- 双方の立場を理解できるよう適切に仲裁
美穂さんの譲れなかった主張に対し、心理学者である心理セラピストの助言もあり、希望は通った。
【第3回セッション】合意文書の確認と署名
事前準備: 美穂さんが合意内容を英語で文書にした。
同居をしていたため、元夫に事前確認し、修正を依頼することができた。
双方納得の上で最終版を作成する。
最終確認と署名:
文書内容を4人で再確認し、双方が完全に納得した上で署名をした。
ただし法的に提出先があるわけではないので、法的拘束力のある正式文書ではなく、「合意の記録」として位置づけにとどまる。
メディエーションで決まった合意内容
1. 子どもの養育に関する段階的取り決め
フェーズ1(息子9歳まで):
- 息子は母親と同居(就寝は母親宅)→美穂さんの提案
- 父親は会いたい時にいつでも息子に会うことができる。週2-3回学校お迎え、夕食後19:30に母親宅へ送り届ける。
- 放課後にどちらの家で過ごすかはおおよそ半分ずつで柔軟に対応。
- 週末は基本1日ずつ、状況に応じて柔軟に調整。
- 学校休暇は基本半分ずつ。休暇前に話し合って決める。
- ホテル宿泊等も可能
フェーズ2(息子9歳以降):
- 息子の意思を最優先に聞く。
- 息子が「2つの家を持つこと」を望む場合、週の半分ずつを父母それぞれの家で過ごす交代養育
- 詳細は息子9歳の誕生月(2015年11月)に再協議
- 息子の意思と心理状態を最優先に考慮
根拠となった考え方:
- 心理セラピストによる発達心理学の知見:9歳頃に「自己」の感覚が形成される
- 息子の特性:引っ越しによる夜驚症、分離不安の経験
- 段階的移行による心理的負担の軽減
2. 教育費用の分担
- 学費・習い事費用は完全折半
- 専用の共有銀行口座を維持
- 日常的支出(食費・衣類等)は各自負担
3. 財産分与
- 結婚後に形成した共同資産を折半
- 結婚前の財産及び元夫父親からの援助分については特有財産
- 美穂さんの「お金は自分で稼ぐ」方針により大きな争いは回避
4. 親権問題(未解決のまま棚上げ)
- 日本で婚姻届を出しており、日本で離婚届を出すとなると単独親権しかなかった。
- 元夫は、日本の子の連れ去り問題を知っており、共同親権を強く希望
- 結果合意に至らず、離婚届提出を保留
- 実質的な共同養育を優先し、法的手続きは後回し
合意後の実際の運用(2014-現在)
フェーズ1の実践(息子7-9歳)
- 合意後、別居。スクール・カウンセラーに相談し、別居2週間前に息子にさらりと父母は別居することを伝える。母親と住み、父親とはいつでも会えること、学校も変わらないことを伝える。合意通りの生活パターンを2年間継続
- 息子は徐々に2つの家での生活に慣れていく
- 大きなトラブルや合意違反はなし
フェーズ2への移行(息子9歳)
- 予定通り2016年1月から週単位の交代養育開始
- 当初1週間交代、後に2週間交代に変更
- 息子自身が「パパが寂しがるから」と配慮して居場所を選択
柔軟な合意変更の実例
ポルトガルの短期移住(息子11歳、2018年):
- 美穂さんの提案で約1年間説得。息子が今後EUの国々を自由に行き来できるようにするため。
- 元々は別の国を希望していたが難しくなり、周りで評判の良かったポルトガルに3人で下見旅行を実施。
- 元夫も最終的に合意し、美穂さんと息子さんで2年間のポルトガル生活。
- 2018年にバリに戻り、交代養育再開。
法的離婚の実現(息子16歳、2023年):
- 元夫にパートナーができ、元夫の希望により離婚の必要性
- 親権は棚上げのまま、離婚届のみ提出。息子も16歳になり、親権対するこだわりにも変化があった。
- 実質的な共同養育関係は継続。
現在の状況(息子18歳)
- 高校卒業し、大学進学準備中
- 友人関係を優先し、両親との時間は自然に調整
- 元夫・祖母・いとこ等とはLINE等で直接やり取り
- 良好な家族関係が継続
メディエーション成功の要因分析
1. 適切なメディエーター選び
- 専門性:対人支援のバックグラウンドを持っている人だと心的合意を大切にしてくれること、子どもの発達への配慮と専門的なアドバイスがあった。
弁護士のバックグラウンドの人だと、義務と権利の話になってしまい、法的な合意を必要としていなかったので、適していないと感じた。 - 文化的理解: 英語対応、欧米の話し合い文化への理解。
- 中立性: どちらの味方もせず、プロセス・ファシリテーションに徹する
- 人生経験: 70代という年齢による包容力と説得力
2. 構造化されたプロセス
- 段階的進行: 関係構築→希望共有→合意形成の明確なステップ
- 事前準備の重要性: 宿題により冷静な思考時間を確保
- 文書化: 口約束でなく記録として残すことで後の確認が可能
- 適切な環境: 中立的な場所での実施
3. 参加者の基本姿勢
- 子ども最優先の共通認識: 両親とも息子の利益を最重要視
- 未来志向: 過去の責任追及より今後の協力体制構築に焦点
- 現実的妥協: 完璧な解決より実行可能な合意を重視
- 長期的視点: 「父と母と子という関係性は一生続く」関係であることの受容
4. 環境的要因の活用
- 法的制約: 準拠法が定まらなかったため話し合いに集中
- 経済的相互依存: 共同カフェ経営により両親ともバリ残留が必須。毎日コミュニケーションを取らなければならない関係性。
- 地理的条件: 同地域での別居(3km圏内)により実行可能な合意形成。
- 国際的背景: インターナショナルスクールには複数国籍・文化的多様性な人たちが多かった。よって、息子は自分の置かれた状況が特別ではないことを感じられた。
美穂さんの個人的成長の重要性
感情管理スキルの習得
息子が9歳になり、毎日家に帰ってくるのではなく、1週間の半分はいない生活になった時に、息子から父親と経験したことを伝えられた時に、素直に話を聞けない自分に気づく。それは、息子にとっても良い影響にはならないと感じ、友人に紹介してもらったコーチを雇い、コーチングを受けることにする。
NVC(非暴力コミュニケーション)コーチングを受ける:
- 自分の感情ニーズの理解をすることができた。
- 息子からの報告(「お父さんとこんなことした」等)を素直に受け入れる力がついた。
- 感情の転嫁を避け、健全な親子関係を維持することに役立つ。
コーチングを学び始める
- もともと会社員時代からコーチングを学習していた。
- 副業でのコンサルティング業務への活用をしていた。
- 感情特化型のコーチングとの出会う。
具体的な効果:
- インナーチャイルドの癒しがすすんだ。
- 自分の欲求と息子への期待の分離ができるようになった。
- 建設的なコミュニケーション能力の向上した。
日本での応用可能性
メディエーション技術の汎用性
美穂さんは日本でもメディエーションを適用可能と評価:
基本プロセス:
- 各自の希望をリスト化
- 読み合わせと論点整理
- テーマごとの建設的話し合い
- 合意文書の作成
成功の必要条件:
- 適切なメディエーター: 中立性と専門性を持つ人材であること。
- 当事者の意識: 父母ともに子ども最優先と建設的対話への意欲があること。
- 段階的アプローチ: 性急さを避け、時間をかけた合意形成が必要。
- 継続的関係: 一度決めたら終わりでなく、状況に応じた調整をすること。
日本特有の課題と対応策
- 単独親権制度: 法的制約下でも、双方が真摯な協力関係があれば共同養育は可能
- 話し合い文化の不足: 海外では、共同親権が当たり前のところが多く、離婚に関して子供のことを話し合って決めることは普通。日本では、その文化が希薄なので、メディエーター活用により建設的対話を実現できる。
- 感情的対立の激化: 適切なプロセスと第三者介入で解決可能がある。
参加者との質疑応答から
Q: 感情的になった元夫がいつ落ち着いたか?
A: メディエーター依頼が決まった時点。「怖い(例:子供を連れ去られてしまったらどうしよう)から攻撃的になる」→「話し合いで解決できる」という安心感が重要。
Q: 合意文書の法的効力は?
A: 法的拘束力は重視せず。当事者間の継続的合意と「揉め続けたくない」という共通理解が基盤。合意文書を作った後は、改めて見返すことはなかった。
Q: 学費の高さは問題にならなかったか?
A: 年間120万円程度だが、折半により負担軽減。教育方針で対立がなかったことが重要。
まとめ
美穂さんの15年間にわたる実践から、メディエーションを活用した段階的アプローチにより、感情的対立を乗り越えて持続可能な共同養育を実現できることがわかりました。
特に重要なのは:
- 適切なメディエーターの選択と構造化されたプロセス
- 子ども最優先という当事者双方の共通認識
- 法的な縛りより実質的な合意を重視する現実的アプローチ
- 親自身の感情管理スキル向上
- 一生続く関係であることの受容と柔軟な調整
この実践例は、日本でも制度的制約を乗り越えて共同養育を実現する具体的な道筋を示しており、多くの当事者にとって希望と実践的指針を与えてくれる貴重な事例だと感じました。
参加者からの感想として、「具体的なメディエーションのやり方が分かり、自分たちでも実践できそう」 「段階的アプローチの重要性がよく理解できた」 「感情管理の重要性を実感した」 「法的制約があっても諦めずに済むことが分かった」「子供を中心に考えることは大切」「相手が嫌でも子供のために話し合える関係をどうやって作っていったらいいのだろう」など、活発な意見交換がなされました。これからの未来に、メディエーションや、感情管理スキルの習得のための教育が必要だという意見も出ました。
美穂さんの元夫は共同親権が当たり前の国で育っているので、例え、パートナーシップを解消することになったとしても、子供については話し合い、父母二人で養育の方針を決めるのが当たり前だということが、この先の日本のあるべき姿になっていくのだという希望が持てるお話だと感じました。美穂さんご夫婦は、教育や生活の基本的考え方が似ていたとしても、養育について意見の相違があったわけで、その調整のためにメディエーションを受けたわけですが、相談に行った法的なバックグラウンドを持つ人だと、義務と権利のことに持っていかれてしまうのを感じて、自分が求めているものは、心理的に寄り添って中立にいてくれる人だということを気づき、その人を探し出せたのは、まるでドラマのようでした。自分が、自分たちがどんな調停を求めているのか?を考えるきっかけにもなると思います。
共同養育Lab.は、今後も毎月第1日曜日の午後に月島近辺にて開催予定です。共同養育に関心のある方は、ぜひお気軽にご参加ください。

